導入期の授業


最初がかんじん




 ☆最初がかんじん


 習字をはじめました。
 40の手習いです(笑)
 先生が、手を取って教えてくださいます。
 基本的なことで微妙な点がよくわかります。
「ああ、そうなのか」
 もちろん、わかったからといってすぐできません。
 思うように手が動きません。
 でも、あとは練習すればいいのです。
 うまくなる見通しがあります。
 週に一度の習字、とても楽しみです。

 さて、授業ですが…
 最初がかんじんだと思います。
 手取り足取りがいいのではないでしょうか。

「基礎的なことをどう教えているのか」という問い合わせが多いです。
 そこで、「最初がかんじん」をテーマにして書いてみることにしました。
 導入期の指導です。

 できるだけ、微妙な点についても書いていきたいです。


☆インプリンティング
☆最初の一週間
☆計算編
☆音読編
☆漢字編
☆鍵盤ハーモニカ編
☆継続
☆スピード

 
 インプリンティング


「先生、書き順が違うんじゃないですか」
「そんなことありませんよ。辞書をよく見なさい」
 念のために調べてみると、間違っているのは私でした(笑)
「ごめんなさい。私が間違っていました。○○君のいった書き順が正し
いです」
「私は、小学生のとき間違って覚えたようです。ごめんなさい」
 あやまりました。
 教師になって2年目のことです。

 それからは、書き順を調べるようになりました。
 あるある 調べてみると、間違って覚えている字がたくさんありました。

 今は、すぐに辞書を見ますね。
 自信がありませんから。

 自分が「できている」と思っていることは疑いません。
 調べもしません。
 絶対の自信を持っています。
 指導の盲点ですね。これは。

 
 子どもたち(6年生)に、漢字の指導をします。
 「田」の書き順を教えます。
 間違っている子がいます。三画目です。
 一と書いてしまうのです。
 
 正しい書き順を教えます。
 空書きを三回。
 ノートに書かせます。
「大丈夫ですか?」
 もう一度、空書きさせます。
 全員あっていました。

 次は、「男」を書かせます。
 空書きをさせます。
 「田」の3画目でストップをかけました。
 6人が間違えました。
 今、「田」をやったばかりなのに、もう元に戻っているのです。
 今習ったことをもう忘れているのです。

 というより、染みついたものが出てしまうのです。無意識のうちに。
 最初に覚えてしまうと、それを変更するのは難しいようです。

  インプリンティング…
 鳥などは、最初に見たものを親だと思ってします。
 お母さんだと思って、ひなが犬のあとをついていく。
 テレビで見たことがあります。
 笑えませんね。

 やはり、1年生の指導が大切ですね。
 他の学年では、初期の指導が大切ですね。4月、5月の。

 

 
  ☆最初の一週間

 新学期、子どもたちの目がきらきらしています。
 先生方も、やる氣十分です。
 新しい出会いは、新鮮です。

 すばらしい実践を紹介します。

 東京のNさんです。
 2年連続で6年生の担任になったNさんは、始業式までに次のことをしました。
  ・子どもの顔名前を覚える。
  ・子どもの誕生日を覚える。

 誕生日まで覚えるというのがすごいですね。
 やる氣、エネルギーを感じます。

 当日、全員の名前をいいました。
 一人ひとりの誕生日を当てました。
 
 すごいですね。
 子どもたちは、びっくりしたことでしょう。
 先生のやる氣がダイレクトに伝わったと思います。
 その努力、工夫に頭が下がります。

 さて、私のほうです。
 最初の一週間でやったことをまとめてみます。

 ●キーポイント 成功体験

  ・宣言
     君たちのいいところを伸ばす。
     弱いところを強くする。
     眠っている力を引き出す。
   
  ・「できる」暗示をかける
     「○○が苦手」という子に対して
     潜在意識を変えないと子どもは変わらない。

  ・成功体験をさせる。
     「できた」という体験が重要。

  ・授業は1年生レベルから
     できない子はいない。
     これなら「できる」

  ・まねまねまね
     授業は、まねさせることから。
     教師のやるとおりにまねさせる。
     
  ・逆転現象を生み出す課題
     できそうでできない 
       例 漢字の読み…天女、男女、五月雨
     できなそうでできる
       例 『分数のかけ算』

  ・弱い子にスポットを当てる
     授業レベルをその子に合わせる。
     個別指導もする。
     「わからないけど、できる」から入る。
     「わからないし、できない」は、×
     「わかるけど、できない」も×
      →成功体験が重要

  ・ノートの使い方
     すべての基本
      →ていねいに

  ・あいさつ
     自分のパワーをみんなに送ろう。
     みんなのパワーをもらおう。
      はりのある声で「おはようございます」
             「さようなら」

  ・毎日声をかける
     一人ひとり
      声かけ、ノートにコメント
      その子のよい点を見つけてほめる

  ・その他いろいろ

 私の場合、成功体験をさせる ことにつきます。
 「ぼく(私)も、けっこうやるじゃない」
と思わせることを重視しています。

  
 計算編   鍛える算数       
 
 計算です。
 10マス計算をやらせます。
 どの学年を受け持っても、ここからはいることにしています。
 (※もちろん、1年生は違います。)
「かんたーん」
 子どもたちはいいます。

 しかし…
 制限を設けると、けっこう難しいのです。

 ◆10マス計算

┏━┳━┓
┃+┃  ┃ 左のようなプリントを用意します。
┣━╋━┫ 
┃0 ┃  ┃ 升目は、1p方眼くらいがいいと思います。
┣━╋━┫ 
┃9 ┃  ┃ 私の場合、B4版でつくっています。
┣━╋━┫
┃3 ┃  ┃ 下の列が10列できるようにつくります。
┣━╋━┫
┃7 ┃  ┃ 0〜9の数字をアトランダムに並べます。
┣━╋━┫
┃2 ┃  ┃ 問題は、列によって変えてください。
┣━╋━┫
┃4 ┃  ┃
┣━╋━┫
┃5 ┃  ┃
┣━╋━┫
┃8 ┃  ┃
┣━╋━┫
┃6 ┃  ┃
┣━╋━┫
┃1 ┃  ┃
┗━┻━┛


 このようなプリントをつくります。
 +のとなりには0〜9までの数字を入れていきます。
 たとえば、1を入れたとします。
 次のようになります。
┏━┳━┓
┃+┃1 ┃ 
┣━╋━┫
┃0 ┃  ┃ ここのマスには、1+0なので、1と書きます。
┣━╋━┫
┃9 ┃  ┃ ここのマスは、1+9なので10と書きます。
┣━╋━┫
┃3 ┃  ┃ 以下同様にやっていきます。
┣━╋━┫
┃7 ┃  ┃ 10題、10秒でできたら合格です。
┣━╋━┫
┃2 ┃  ┃ 教師は、タイムを計ります。
┣━╋━┫
┃4 ┃  ┃ 「1,2,3」とカウントします。
┣━╋━┫
┃5 ┃  ┃ できたら「はい」といわせます。
┣━╋━┫
┃8 ┃  ┃ 何秒と書かせます。
┣━╋━┫
┃6 ┃  ┃ 10秒切れない子は、何題できたか書かせます。
┣━╋━┫
┃1 ┃  ┃ 
┗━┻━┛      

 同様に、+の右に、2を入れます
 同じように、3〜9もやっていきます。

 +0,+1、+2くらいは、簡単にクリアできる子が多いです。
 しかし、+9になると、とたんにスピードが鈍ります。
 20秒かかってもできない子がいるかもしれません。

 1回目は実態調査
 0→1→2→3→4→5→6→7→8→9
 の順にやっていきます。
 全部10秒でできる子は、少ないと思います。

 次からは練習です。

 まずは、「0」だけをやります。
 全員が10秒切れたら「1」に進みます。
 以下同じように、「2」→「9」と進みます。
 ※「9」は計算のコツをつかめば速くできます。

  制限タイムは、実態に応じて変えてください。
  ただし、20秒以上にするとだれます。
  長くても20秒がいいと思います。

  バリエーション

   40題連続…0、1、2、9を連続でやらせます。
         制限タイムは、40秒。
         速い子は、20秒くらいでできます。

   20題連続…9、9 を連続でやらせます。
         制限タイムは、20秒です。

  毎日、5分
  継続してやっていきます。
  0、1、2、9ができるようになったら、次は、8をやります。
  以下、7、3、4、5、6という順番でやっていきます。
  (順番は、変更可です)

  このようにして、全部の段10秒以内にできるようにします。

                    
                 「鍛える算数」に                                                          

  音読編


 音読指導です。
 次の詩が教材です。

  とる
         川崎 洋

 はっけよい すもうとる
 こんにちは ぼうしとる
 てんどんの でまえとる
 セーターの ごみをとる
 のらねこの しゃしんとる
 かんごふさん みゃくをとる
 おはなみの ばしょをとる
 コーラスの しきをとる
 たんじょうび としをとる
 リリリリリ 受話器とる
 

 基礎の時間に、音読の教材として扱います。

 全文を読ませます。
 たいていの場合、ただ読むだけになるでしょう。
 つまり、表現を意識しないで読んでしまうのです。

 まずは、1行だけを取り上げます。
 ここが大切です。

 はっけよい すもうとる

 わずか1行です。
 読めない子はいません。
 まずは、だれでもできるところから入ります。

 1回目、一人ずつ読ませます。
 一人ずつがポイントです。 
 最初は、実態把握のためただ聴くだけです。
 席順でかまいません。全員に音読させます。
 ほとんど棒読みです。
 一人だけ、表現を意識して読んだ子がいました。
 (はっけよーい と力をためて読みました)
『今、一人だけ違う読み方をしました。その人だけ合格です。だれだか
 わかりますか』
「…」
『もう一度、読んでみましょう』
 2回目、読み方がかわります。合格することを意識したからでしょう。
 さっきの子は、普通の読み方になってしまいましたが、ほとんどの子
がよくなりました。
 声に力が感じられます。
『よくなりましたね。1回目よりずっといいです』

 3回目、いよいよ個別指導の始まりです。
 最初の子、くり返しの意味を教えました。
 「すもうをとる」と読んでしまうのです。
 「すもおー」という感じで読ませました。
 できました。
『もう一度やってごらん』
「すもうをとる」
 できなくなってしまいます。
 何度も繰り返しました。
『練習というのは、できるまでやることです』
『1回できても、できなくなってしまうでしょう。算数ができないとい
 っていた人、1回やって終わりにしていませんか』

『Aくんは、おなかの力が抜けています。そんなんじゃ、強いシュート
 できませんよ。シュートするつもりで読んでみなさい』
 サッカーをやっている子です。
 もう一度読みます。
『まだですね。お腹を押さえて読んでみましょう。おへその下のこのあ
 たり』
 やってみせます。
『そこから、声を出すのです。そこを押さえて読みましょう』
 Aくんが、お腹を押さえて読みます。
 はりのある声が出ました。
「そう、それでいい」

 おとなしそうなB子さん。
「いい声です。エネルギーが出ています。指導されないのに、そういう
 声が出せるのは才能がある証拠です。B子さんはよくなりますよ』
 その子の表情が変わりました。
『あんまりすばらしいので、もう1回読んでください』
 さらによくなりました。
『いいですね。すばらしいです』
 B子さんの目が輝いています。

 表情がないC子さんが読みます。
『よくなりました』
「違いがわかりましたか」
 みんなに聴きました。
「…」
『1回目は下を向いていました。2回目は、ちょっと顔を上げました。
 3回目は、しっかり前を見て読んだんです。それでいい』
 C子さんは、にこっとしました。
『今の笑顔、とってもいい。ほっぺたの筋肉が上がって、表情が出てきました』
 さらにいい笑顔になりました。

 またまた、おとなしそうなD子さんの番です。
『君は、声がいい。素質があります。黒板に、声をあててごらん』
 D子さんが読みます。
『声があたったと思う人』
だれも手を挙げません。
『途中までは、すごくよかったです。最後が、ひゅーんと落ちてしまったのが残念』
『もう一度やってみましょう』
 よくなりました。
『そうです。よくなりましたよ。その調子。よくなったときは何回もやるのです。今の感じを忘れないでね』
 顔ががらりと変わりました。
 同じ子どもとは思えません。
 体から、エネルギーが噴出しはじめたのがわかります。
「今、変わりましたよ』
「えっ?」
「今、D子さんは変わったんです。わかりますか』
「?」
「さあ、もう一度読んでごらん」
 すばらしい声、すばらしい音読でした。

 このようにして、一人ひとりを指導していきます。
 よい点を見つけ、ほめるのが基本です。

 一人ひとりをほめたあと、全体を指導します。
 よかった読みを、全員でやるのです。
  ・力をためて「はっけよーい」。
  ・「はっけよい」で突っ張り。
  ・行司のポーズで、「はっけよい」
  ・お腹に手を当て、腹から声を出す。
  ・声を黒板に当てる。

 などなど。
 いろいろなパターンで読ませます。

 ■2回目の授業

 こんにちは ぼうしとる

 今日は、帽子をもたせました。
 つまり、動作をつけて読ませるのです。
 一人ずつ読ませます。

 1回目
   ・「こんにちは」といってから、帽子をとる
   ・「こんにちは」といいながら、帽子をとる
   ・帽子をとってから、「こんにちは」という

  大きく3つにわかれました。

  人に帽子をもってもらう。
  その帽子をとりながら、「こんにちは」という
 
  「こんにちは」といってから、床に置いた帽子をとる

 「とる」の解釈を変えた子が2人いました。

 けっこうおもしろいです。

 2回目、指導を入れます。
『今、だれに向かって「こんにちは」といったんですか』
「?」
『今、「こんにちは」という相手をイメージしましたか』
「…」
『していませんよね』
「…」
『イメージしてください』
 その子はイメージできたようです。
 音読ががらっと変わりました。
 友だちを見ながら「こんにちは」という子もいました。
『「いいですね。今のは。うまくイメージできない場合は、だれかを見ていうといいですね』
 よくなってきました。
『次は、自分が好きな人に初めて声をかけるという状況設定でやってみましょう』
 照れてしまう子が多かったです(笑)
 
 このような感じで進めていきます。

 音読指導、1行から始めるのがいいと思います。
 だれでもできる(一応読める)ところから入ります。
 子どもの意識を、「どのように読むか」に集中させることができます。
 難しい部分を扱うと、「間違えないで読む」ことに意識がいってしまいます。
 こうなると、音読は楽しくなくなります。
 
 いろいろなパターンで読ませます。
 もちろん、恥ずかしくてやらない子もいるでしょう。
 それでいいと思います。
 まずは、「音読って、けっこうおもしろいな」と思わせることでしょう。

 どの子も音読が好きになるように…
 祈っています。




  
  漢字編
 
 漢字の指導も、1年生レベルから始めます。
 たとえ6年生でも、いちから始めます。
 ここがかんじんです。
 ※4年生、5年生レベルからやろうとすると失敗します。
 
 できない子はいません。
 だれでもできるができない?授業の開始です。
 
 1年生の漢字の問題を出します。
「1年生の漢字が基礎、これができればすべてできるようになります」
 子どもたちは、たかをくくっています。
「簡単すぎる」

 いよいよ指導を始めます。

 まずは、書き順を指導します。
 書けることは書けますが、書き順となると…できない子が多いです。

  ◆書き順
  
  (例)九 田 上 女 五 など、間違う子が多いです。

     覚え方を教えます。
     覚え方 女の忍者を「くのいち」という。
     書く順に、「く」「ノ」「一」だから、「くのいち」

     クイズのようにしてやっていきます。
     ○か×か
     どっちが正解か。縦から書くか、横から書くか等

  ◆読み方
   一を扱います。
     数え方  一つ なんと読むでしょう。
          一、二、三(ひい、ふう、みい)
          一匹、二匹、三匹(ぴき、ひき、びき)
     人の名前 一、一枝(はじめ、かずえ)
     
     五月(「ごがつ」「さつき」)

     女子→男女→天女(なんにょ、てんにょ 「じょ」と「にょ」)
     男子→長男(ちょうなん 「だん」とん「なん」)
     
     雨→雨雲(あまぐも きりさめ 「あめ」と「あま」)
      →霧雨(きりさめ 「さめ」)

     五月雨(さみだれ)

 このように指導していくと、1年生の漢字をバカにしなくなります。
「へえーっ、知らなかった」といいます。

  いろいろな話もします。
  (例)
  気 昔は、氣と書いた。
  中の、米は、パワーが四方に広がる様子を表している。
  今の気は、中が〆になっている。
  パワーが出ないのだ。
  だから先生は、氣の字を使っている。

「簡単だよ」
といっていた子どもたちが静かになります。

「漢字って難しいね。でも、おもしろい」

  
  
 
  鍵盤ハーモニカ編

 補教で、低学年の教室に行きました。
 音楽の授業です。
 まずは、歌を教えました。

 歌のあとは、鍵盤ハーモニカの指導です。
 『かっこう』をやっているそうです。
 1回聴かせてもらいました。
 鳴かないかかっこうがけっこういました。
 指が動かないのです。
「うまく弾けないの?」
「うん…」
「じゃあ、違うことからやろうか」

 教室から、リコーダーを持ってきました。
 救急車(パトカー)をやりました。
 バカ受けでした。

 シーソーシーソーとふくのです。
「シーソー、シーソー、やってみましょう」
 よくわからない子には、一人ひとり教えました。

 全員できるようになりました
 先ほど、できなかった子ががにこにこしています。
「先生、救急車おもしろい」
「これなら、できる」
と喜んでいます。

 正統派の人からは怒られそうですね(笑)
 でも、苦手意識を持っている子には、いい方法ではないでしょうか。

 鍵盤ハーモニカを弾くという意識が、救急車をやりたいという意識に変わります。
 苦手意識が引っ込むのです。
 やっているうちに、もっとおもしろくなってきます。

 意識を変えろ、といっても変わるものではありません。
 その意識をそのままにしておけばいいのです。
 違うことに意識を向けると自然と引っ込むのです。

 苦手な子ものってきました。
 続いて、強弱の指導をしました。

 強弱をつけてといっても、子どもにはよくわかりません。
 たとえば、教師が、「大きく」「小さく」といいますね。
 これでは、大きさを変える必然性がありませんね。
 いわれるままにやるので、あんまりおもしろくありません。

 次のようにしました。
「救急車のサイレンが、遠くからきこえてきました」
「だんだん、近づいてきます」
「自分の近くまできました」
「今、目の前です」
「だんだん離れていきます」
 私がリコーダーでやってみせました。
「すごーい」
「やりたい」
 興奮している子どもたち。
「やってみよー」

 見事、強弱がつきました。

 この後、『かっこう』でも、強弱の練習をしました。


  続けること

 かなり前のことです。
 学芸会まで3週間。 
 6年生の担任からお願いされました。
「歌を教えてほしい」

 私は、彼らが5年生のとき担任だったのです。
 歌の指導もしていました。
 毎日、歌を歌わせました。
 1年間で、見違えるようになりました。

 6年生になってからは、教室で歌っているのを聴いたことがありません。
 方針の違いとはいえ、もったいないと思っていました。
 さりとて、こちらからやってほしいともいえません。
 しかたがない…とあきらめていました。
 思わぬ指名でした。

 学芸会で、6年生はミュージカルをやるのです。
 何曲も歌うそうです。
 ソロもあります。

 指導にいきました。
 まずは、聴かせてもらいました。
 声は出ない、口は開かない、やる氣はあるのですが…
 別人のようになっていました。
 おいおいどうしたんだよという感じでした。

 久しぶりの指導です。
 最初は、基礎から入りました。
 昨年やっているので、スッと入ります。
 しかし、なかなか思うようにいきません。
 呼吸も腹式呼吸になりません。
 歌う声が出ません。
 のどをしめつけるような感じになってしまいます。
 
 歌は、やらないとすぐに戻ってしまいます。
 あっという間です。
 たとえ、1日1曲でもいいから歌っていたら…
 すべては後の祭りです。

 それから、毎日やりました。
 すぐには戻りません。
 リハビリをしているような感じでした。

 2週間すると、どうにか前の片鱗が見えてきました。
 声の響き、つやもでてきました。
 口も大きくあくようになりました。

 やはり、毎日の練習が大切だと思いました。

 やめるのは簡単、続けることは難しい…
 少しでもいいから続ける これが大切…

 今、学校全体で基礎学力づくりに取り組んでいます。
 かなりの成果を上げています。
 時間を設定し毎日続けているからだと思います。

 恩師に教わった言葉
 「継続は力なり」
 を実感しています。
 
 スピード


 取りかかりのスピード

 授業の開始。
 ざわついた教室、日直が
「静かにしてください」
 ざわざわ。
 静かになったと思ったら、違う班がざわざわ。
 なかなか授業が始まりません。
 そのうち、全体が崩れてきた…
 このようなことは、ありませんか。

 パッと授業が始まればだれません。
 取りかかりのスピードですね。これは。

 私の場合、すぐにはじめます。
 だれる間を与えません。

 例えば、漢字の学習です。
 プリントを配ります。
 班の代表が、パッと取りにきます。
 きた順に配ります。
 早い者勝ちです。
 プリントをもらったらすぐにはじめていいのです。
 2年生レベルの漢字100題
 5分でやらせます。

 配り終わったら、スタートボタンを押します。
 ストップウオッチで時間を計ります。
 
 子どもたちは、集中してやっています。
 教室は、シーン。
 驚くほど静かです。

 漢字のプリント
 2年生の漢字の復習です。
 ほとんどの子が簡単にできます。
 しかし、5分で100題やるとなると違います。
 最初は、できません。
 3分の1もいきません。
「あれっ、簡単にできるっていったんじゃないの?」

 やっていくうちにスピードがついてきます。
 パッと取りかかるようになります。
 集中してやるようになります。

 今では、ほとんどの子が5分以内にできるようになりました。
 

「ゆっくりでいい、ていねいにやれば」
ということをよく聴きます。
 そんな人に限って、
「はやくしなさい」
と、子どもをせきたてています(笑)

 できることは、すばやくやるほうがいいのでは?


   着替え

 着替えをさせます。
 黙っていると10分近くかかりませんか。
 体操着をとりにいくまでに時間がかかります。
 とってきてから、しゃべっています。
 なかなか着替えません。
 大好きな体育の時間が少なくなるのに…
 わかっていませんね。

 体育が終わりました。
 また、着替えです。
 たらたらやっていると、次の授業に食い込みますね。
 これが続くと…
 1年間でどれくらいロスが出るでしょうか。
 
 着替えの指導を始めます。
 教師と競争させます。
「よーい、どん」
 私は1分くらいで着替えます。
 もちろん、きちんとたたむまでやっての話です。
 子どもたちはびっくりします。
 あまりにも速いからです。

 一回見ると、どれくらいのスピードかわかります。
 次回から、時間を計ります。
 しばらくは、教師もいっしょに着替えるといいでしょう。
「着替えます。2分でできたら合格です」
「よーい、どん」

 もちろん、教師がダントツで一番です。
「先生、ずるいよ。体育着持ってきてるんだもん」
「じゃあ、君たちも持ってきておけば?」
「いいの?」
「いいですよ」

 次からは、あらかじめ体育着を用意している子が増えます。
 子どもたちの動きは、だんだん変わっていきます。
 着替えに対して意識も変わります。
「先生、洋服のたたみ方教えて」
「どうやったら、速く着替えられるの」
と、いいにくるようになります。
 脱ぎ方
 たたみ方
などを教えます。

 低学年の場合は、毎日やるといいですね。

 着替えが速くなると、学級が変わります。
 さて、どんなことが起こるのでしょう?


 帰りの支度

 着替えが速くなると、学級に変化が起こります。
 雰囲氣が変わってきます。
 活氣が出てきます。メリハリがついてきます。
 だらーっとした感じがなくなってきます。
 
 着替えのスピードを、他のことに転化させましょう。

 着替えが速くなった子は、意識、行動が速くなります。
 帰りの支度にスポットを当てます。
 「よーいどん」
 タイムを計ります。
 2分以内にさせます。
  
 うまくできない子には、教えましょう。
 手伝います。
 はじめは、教師がやってあげるといいですね。
 問題は、手順です。
 うまくできない子は、手順がわかっていないのです。
 段取りがわかってくればできます。

 高学年の場合は、考えさせます。
 教科書・ノートなどをそろえてから鞄をとりに行くか
 鞄をとりに行ってから、教科書・ノートをそろえるか
 どうしたらパッと帰りの支度ができるか、段取りを考えさせます。
 やることによって、考える力もついてきます。

「すごいねー、帰りの支度も速くできるようになったね」
 うんとほめます。

 帰りの支度は速くなるのが早いですね。
 早く帰れるからでしょう(笑)
 能力フル回転という感じです。

 帰りの支度、やればやるほど速くなります。
 高学年だったら、1分くらいでできるようになります。
 (低学年 2分、 中学年 1分30秒くらい)

 こうなったら、次に進みます。

 次は、授業の準備と片づけです。

 
 授業準備

 着替え、帰りの支度とステップを踏んできました。
 次は、授業の準備です。
 これができるようになると、授業がしまります。
 しかし、現実はそう甘くないようです。

 聴いた話です。
 ある中学校。
 A先生は、いつも遅れて授業にいきます。
 生徒たちは、おしゃべりしたり、教室から出てふざけていたり…
「何やってるの。授業はもう始まっているでしょう」
といっても、生徒はいうことを聴きません。
 授業をはじめるまでに10分以上かかるそうです。
 
 同じ学校のB先生は、授業5分前に教室に入ります。
 時刻になる前に、生徒たちは席に着き教科書、ノートなどの準備をし
ます。
 チャイムと同時に授業が始まるそうです。

 同じ学級で、反応がこうも違ってきます。
 いったいだれの責任でしょうか?


 B先生のように、「教師が先にいき待っている」というのが大切だと
思います。
 先生がきている、待っているとなると、子どもたちの意識は変わってきます。
 授業前に、教科書・ノートを用意するようになります。
 学習の構えができるのです。

 授業準備とは、(まずは)教師サイドの準備です。
 

 「はやさ」のイメージ

 教師が、授業準備をきちんとするようになったら、子どもの番です。
「はやくしなさい」
といっても、速くなることはありません。
 あせるだけで終わってしまいます。

 子どもたちは、「はやく」がイメージできません。
 教師のいう「はやく」は、何のことを指しているのでしょうか。
  手を動かすスピード(ハンドスピード)ですか。
  指示された後の行動(着手のスピード)
  頭の回転ですか。
  意識ですか。

 ちょっと考えると、わからなくなります。

 子どもは、もっとわからないでしょうね。
 混乱するのは、もっともだと思います。

 私の場合、「はやく」とは何のスピードかを考えさせます。
 ほとんどの子が、答えられません。
 イメージできないのです。

 教えます。
 この場合は、取りかかりのスピードです。

 遅い学級は、ここが遅いのです。
 しゃべる、ふざけるなどをして、動き出さないのです。

 
 取りかかりのスピードが肝腎です。


 ハンドスピード

 取りかかりが速くなったら、次はハンドスピードです。
「速くしなさい」
といっても無駄です。
 教師のいう速さがイメージできないからです。

 まずは、やってみせます。
 教科書とノートを机の中から出します。
 1秒以内にやります。
「先生、速い!」
 子どもたちはビックリします。
 何回かやります。

 どれくらい速いかイメージができます。
 
 次は、体感です。
 スピードを体感させるのです。
 どれくらい速いか。
 体感させない限り、速くなりません。
 感覚を身につけさせる練習をするのです。

 最初は、10秒で用意する練習をします。
 だんだん、速くしていきます。
 間延びすると、だれます。
 雰囲氣がだれたものになるのです。
 一度だれると、修正するのは難しくなります。
 スピードが命です。

 机の中がめちゃくちゃになっている子はできません。
 探しているうちに10秒たってしまいます。
 こういう子は、教師がそろえてやります。
 一番上に、ノートの中に教科書をはさんでやります。
 ゆっくりしている子の場合、手を取ってやります。

 何回かやっていくうちに、スピードの感覚がわかってきます。

 トレーニングで、かなり速くなります。
 どうしたらパッと用意できるか工夫するようにもなります。
 これがおもしろいです。


 ゆったり

 帰りの支度が始まります。
 最近は、パッと鞄をとりに行くようになりました。
 Hくんは、最後にとりに行きます。
 動作は、ゆったりしているように見えます。
 しかし、支度が終わるのは、いつも一番なのです。

 不思議に思いました。
 あんなにゆったりしているように見えて速い理由は?

 その日の職員室。
「忙しい」
と動いている方がいます。
 本人は、せわしく動いているのですが…
 ちっとも速いと感じません。
 ミスをして、何度もやり直します。
 手順を間違え、何度も行ったりきたりしています。
「忙しい、忙しい」
 忙しいと思っているのは本人だけ。
 トータルでは遅いのです。
 的が外れているのです。
 見通しを持って行動していないのです。

 次の日、Hくんの動きを追いかけてみました。

 みんなが鞄をとりに行っているときのことです。
 Hくんは、教科書とノートを机の上に出してそろえていました。
 最後に、鞄をとりに行きます。
 なるほど、こんでいるときには行かないのです。
 すいてくるころを見計らって行くのですしょう。
 鞄をとってくると、さっと教科書とノートを鞄に入れます。

 流れがあります。動きによどみがありません。
 止まりません。
 スムーズです。
 ゆったりしているようで速いのです。

  見通し
  段取り
  流れ
 などがしっかりできているのでしょうね。

 目は、動きのスピードに向きがちです。
 しかし、スピードとはトータルなものなのです。

 本当に速いとは、見た目にゆったりしているのですね

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