子どもが創る授業



 学級が育ってきます。
 子どもたちの手で、授業を進めるようになります。
 自らの手で学習を進める子どもたち。
 これは「生きる力」の1つだと思います。

 



子どもが進める授業
教師の支援
基礎の授業
シュートゲーム




  子どもが進める授業

 私の学級には、学習係なるものがある。
 国語係、算数係というように、教科ごとにわかれて織り、1週間交代でやっている。もちろん、同じ係を続けてやってもいい。
 その子たちが中心になって、授業をする。
「子どもに、授業ができるわけがない」
と思う人もいるだろう。
 どうして、どうして、それができるのである。
 子どもたちは、私たちが思っているよりずっとずっと有能である。

 もちろん、最初はうまくいかないことも多い。
 漢字の授業では「ドリル○ページをやってください」が続いた。
 子どもたちもあきてくる。
 係の子もどうしたらいいかわからない。
 三日もすると
「てっちゃん(私のこと)、どうしたらいいの。教えて」
と聴きにくる。

 聴かれたときは、ていねいにアドバイスする。
 参考になる本を紹介する。
 係の話し合いにも参加する。

 アドバイスされたことを活かしていく。
 だんだん授業の「形」ができてくる。
 自分たちでプリントをつくったり、クイズ形式にしたりする。
 工夫し始める。
 前の係のいい点を引き継ぐ。
 新しい係は、それを発展させる。
 どんどんよくなっていく。

 
 自分たちで授業を進める喜び、その味は格別である。


 教師の支援

 ・聴かれたらアドバイスする。
 ・授業に役立つ本をそろえておき、紹介する。
 ・うまくいかないときは、途中で介入する。
 ほめまくることが前提なのは、いうまでもない。

 学習係をつくり、子どもに授業させてみよう。
 


 ◆子どもが進める基礎の授業

「100マス計算をはじめます」
 係の一人がプリントを配る。
 もう一人が、問題を板書する。
「よーい、ドン」
 計400題やる。
 やっている最中、一人はタイムを計る。
 もう一人は、これから出す問題を書いていた。

 @59÷4
 A97÷5
 B31÷2
 C35×85
 D55×72

 100マス計算終了。
 次は、前述した問題をやらせるようである。
「よくわからない人は、一問やったらもってきて(見せにきて)」
「できる人は、Dまでやって」
「ヒントは、CとDは似たような答えです」

 計算し終わった子は、係に見せにいく。
 係の子は、あっていたら丸をつけ、間違っていたらアドバイスをしている。
 これから計算が得意になる予定のKくんが
「先生、これでいい?」
と訊きにきた。

「4×3って、15だっけ?」
「4×3=15でしょう。あれっ…12だ」
 まだまだ、一発全員正解とはいかない。
 練習が不足している。

 係の方を見る。
 6人が並んでいる。
 このへんは改善したほうがいい。
 例えば
 ・3〜4人のノートをいっぺんに見る。
  そのかわり見るのは1問のみ。
 ・正解だった子(最初の3〜5人)に、○つけを頼む。
  結果を報告させる。

 10分たったところでストップがかかった。
「次は、卒業テストです。1分でやってください」
 問題は、67÷5

 速い子は10秒。
 たちまち長い列ができた。
 助け船を出す。
「先生に見せにきてもいいですよ」
 三分の一の子が、私に見せにきた。

 2人が間違っていた。

 係に見せた子は、全員正解とのことだった。

 ここで教師が介入する。

 問題を板書する。
「これがどうして間違いなのか、説明しましょう」
「Kくん、説明してください」
と算数係。
 Kくんは、1,2年生のころ、「勉強ができない」というレッテルを貼られていた子である。
「まず、7をかくしますね」
 平たい磁石のプレートで67の7をかくす。
「6÷5ですね。1ですね。だから、ここに1と書きます」
というようにKくんが説明していく。
 成長したものだ。

 次の日、係は丸つけする子を増やし、長い列ができないようにしていた。
 まずい点を、すぐに改善したのである。
 この行動力はすばらしい。

 最近、算数係は成長著しい。
 ・無駄が少なくなってきた。
 ・はやく終わってしまう子のために、問題数を5問にしている。
 ・終わったらどうするか、指示している。
 ・できたかどうか、一人ひとりをチェックしている。
 ・卒業テストで、本当にできているかどうか、確かめている。

 


  子どもが創るシュートゲーム

  1 シュートのコツをつかむ

 ある日の体育の授業、前半は縄跳び。
 一人ひとり。やりたい技に挑戦している。
 体育係は、「教えて」という子どもたちを集め、二重跳び、返し横ふり跳びなどの技を教えている。
 さて、後半は何をやるのだろうか。

 係が、バスケットボールを持ってくるようにいっている。
 外体育でポートボール、体育館ではバスケットボールをやるつもりか。
「今日からシュートゲームをします。班ごとにわかれてやります。ゴールが全部で5つありますよね。だから、1つの班で1つ使います。まず、シュートの練習をしてください。5分間やります」(体育係)
「ドリブルしてシュートしてもいいんですか」
「いえ、フリースローみたいにやってください」

 班(生活班、6人ずつの班が5つある)ごとに練習が始まった。
 フリースローという言葉を聴いているので、どの班も、ゴール正面からシュートしている。
 投げ方は、さまざまである。
 中には、ドッジボールやサッカーのスローインまがいの投げ方もある。
 思わず笑ってしますう。
「違うよ。こうやって投げるんだよ」
 見るに見かねて、ミニバスケットボールクラブの子がアドバイスする一こまもあった。
 
 5分後、
「集まってください」
 みんなが集合。
「『どうやったら入るか』考えながらやってください」(体育係)
 ある程度慣れたところで課題を出すのか。
 なるほど。
 これが今日のメインだろう。
 シュートゲームの輪郭が見えてきた。

 子どもたちの動きが変わった。
 和やかなムードに緊張のスパイスが入ったというところか。
 シュートの打ち方がていねいになってきた。
 力まかせに打つ子は、いなくなった。
 
 3分後、
「『どうやったら入るか』班で話し合ってください」(体育係)
 班ごとの話し合いは、約3分。
 その後、係は全員を集合させる。
「『どうやったら入るか』コツを発表してください」
 他の学習同様に、自由に発言させる。
「あの黒いわくがありますね。あそこにボールを当てるとうまく入ります」
「だいたい同じなんですけど、わくはわくでも角をねらうといいと思います」
「でも、強くぶつけたらダメなんじゃないですか」
「ドッジボールのときみたいに強く投げるんじゃなくて、やさしく投げるんです」
「ふわーっという感じで投げるんです」
「直接入れるときは、リングの前のところを見て、そこをねらいます」(クラブの子)
「みんなは手だけで投げているけど、そうじゃなくて体を使ってやるんです。特に、ひざを見ていてください」
クラブの子が実演してみせる。
「投げるとき手首を使うといいと思います」
など、いろいろな意見が出された。
 グループ(班)学習→発表というパターンを、体育の授業でも使っている。

「では、もう一度練習してください。3分やります」
 はじめのころより、シュートの成功率が高くなってきている。
 集合。
 コメントも求められた私は、次のようにいった。
「イメージトレーニング、やっていますよね。シュートを打つときも、ボールが入ったところをイメージしてやってみてください。上手な人のシュートを思い浮かべてやるといいですね」
「もう一つ、まだ強すぎる人がいますね。ボールを卵だと思って、割れないようにそっとリングの上にのせるような氣持ちでシュートしてみてください」
(※親友、森實氏から教えていただいた指示)

 「もう一回やりたい」という子が多かったので、さらに2分練習する。
「時間になったので、まとめは教室で書いてくださいね。『どうやったら入るか』シュートのコツを、自学長に書いてください」(体育係)



 

 
 ★ 2 「10本シュートして何本入るか」

 2回目の授業。
 縄跳びをやったあと、シュートゲームに入る。
 今回は、どんなことをやるのだろう。
 楽しみである。
「今日は、『10本打って何本入るか』というゲームをやります。終わったら集まってください」(体育係)
 班ごとにわかれる。
 「10本中何本入るか」という課題、当然、入れば入るほどいいのだろう。
 一本一本、シュートに氣≠ェ入っているのだろう。
 前回とは目つきが違う。
「あっ、入った。これで3本中2本も入ったよ」
「またダメだー。4本中0本だよ!」
 班によってやり方が違う。
 2つの班は、1人1本ずつ打っている。
 4つの班は、1人10本ずつ打って交代している。
 指示の受け取り方が違っているのがおもしろい。
 前者は、すぐに順番が回ってくる。
 流れがある、リズムがある。
 後者は、待ち時間が長い。
 反面、友だちが数を数えてくれたり応援してくれたりする利点あり。

 集合。
 何本入ったか発表。
「10本の人」
「9本の人」
というように聴いていく体育係。
 最高は、7本(3人)。
 成功率の高くない子は、1本(1人)だった。
 5〜3本の子が多かった。

「それでは、入った数を分数であらわしてください」
 今やっている『分数』の授業とつなげる体育係。
 さすがである。
「10分の3」
「10分の5」
 子どもたちは、口々にいう。

「今度は、場所を変えてやります。時計回りに動いて違うゴールにいってください」(体育係)
 計3セットおこなった。
 全部で30本シュートしたことになる。

 集合。
「今日は30本シュートしたんですけど、全部で何本入りましたか。分数であらわしてください」(体育係)
「最初7本でしょ…全部で19本入った」(最高)
「全部で6本だ」(最高の対極)
「記録する紙はないんですか。あったほうがいいんじゃないですか」
「はーい、今度つくりますね」
「先生から一言お願いします」
『もっと入らないかと思ったけど、けっこうはいりましたね。その調子です。見ていて氣づいたんですけど、班によってやり方が違いましたよ。1本ずつ順番にシュートした班と、1人10本打ってから次の人に代わる班がありました』
 しまったという表情の体育係。
 次回に活かしてくれるだろう。


 
 ★ 3 プレッシャーをきつくしてシュート

 3回目の授業。
 おそらく、前回の続きだろう。
「今日は、まず1人10本シュートしてください。終わったら、次の人に代わってください」(体育係)
 指示を明確にした。
 前回同様に、やらせる。
 違っていたのは、チャンピオンを決めたことである。
 3回やったのだが、やるたびにチャンピオンを決めた

「次は、順番にやります。1本シュートしたら次の人に代わります」(体育係)
 明確な指示である。
 これまた、3回おこなう。
 それぞれの回で、チャンピオンを決めた。
 全体的に前回と同じ内容なので、やや盛り上がりに欠けたか…
「鉄ちゃん、何かいい方法はありませんか」(体育係)
困った表情で訊きにきた。
 ようやく私の出番がきた(笑)
『10本中何本入るかというのは、なかなかよかったと思います。目あてがはっきりしていて。今日は、プレッシャーをきつくしてみましょうか』
「プレッシャー?」
『そうです。着がえのときを思い出してください。みんなは、2分以内で着がえますね。タイムを計ってやると行動が速くなりますね。いい意味で緊張するからです』

『これから、時間を決めてやってみましょう。10秒で何本入るかやってみます』
「えーっ、それはきついんじゃないのー」
という声をあっさりかわし、すぐにはじめる。
『みなさん、こんにちは。こちらはシュートゲームの会場です。解説の杉渕さん、どうですか、「10秒で何本入るか」というゲームは』
『(1人芝居)そうですねぇ、けっこうきついでしょう。あせってしまうと、0本ということも考えられます』

『最初は、個人戦です。はじめにやる人立ちましょう。あとの人は、応援してくださいね。よーい、ドン』
 私は、ストップウォッチでタイムを計る。
 10秒のプレッシャーはかなりきついらしい。
 子どもたちの目つきが変わる。
 空氣が変わる。
 成功率が高かった子も、とたんに入らなくなる。
 あせってしまうのだ。
 ボールが遠くへ転がってしまったら、ジ・エンド。
 1本打っただけでゲームオーバー。
 汗をかいただけで終わってしまう子も…
 見ている方は、おもしろい。

 比と班6人なので、6セットおこなう。
 その後、発表させる。
『10秒で5本、すごいですねぇ。2秒に1本入ったことになります。この2人がチャンピオンです。はくしゅー』

 リクエストに応えて、あと2回戦おこなう。

『次は、団体戦です。1本打ったら交代、1分で何本入るでしょう。楽しみですねぇ』
 団体戦は、チームプレーが鍵。1人だけうまくてもダメである。
『よーい、ドン』
 体育館騒然。
 ロックコンサートのの会場のようである。
『やめーっ』

 集合。
 発表させる。
 最高は、18本。

 個人戦は、ロスタイムを含めても2分かからない。
 団体戦は1分で終わる。
 短時間でできるのがみそである。

「先生、作戦タイムとってください」
『いいですよ』
 話し合いは盛り上がる。
 当然だろう。
 いつもはおとなしい子までが大きな声を出している。
 必死になるとエネルギーがでる。

 このあと、せがまれて4回やる。

『教室に戻ったら、何秒で何本入ったか計算してみましょう』



 
 ★ 4 入るまでシュート

 4回目の授業。
 前回の発展版になった。
 その子が入るまでシュートを続ける というルールに変更した。
 入る本数は当然減った。
 途中で作戦タイムをとることに加え、班ごとの練習時間をとった。
 体育係もなかなか考えるものだと感心した。

 


 ★ 5 リレー

 5回目の授業。
「今日は、ドリブルしてシュートします。班ごとに練習してください」(体育係)
 静止してのシュートから動いてのシュートへ。
 ドリブルは、ポートボールのときいつもやっているので大丈夫だろう。
 班ごとに練習。
「これから、リレーをやります。あっちのゴール1つだけを使います。入るまでシュートしてください。入ったら、またドリブルで戻ってきて次の人にタッチします」(体育係)
「ドン」
の合図とともにダッシュ。
 ゴール前に殺到する子どもたち。
 今回は、ライバルが大勢。
 うまい子が1位になるとは限らないゲームである。
 計3回おこなった。

 体育係の考えたシュートゲーム。
 回を重ねるごとにレベルアップした。

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