イニシアチブ


 フレネ学校(フランス)の子どもたちは、学校をよくするために進んで行動します。
 これがイニシアチブです。
 杉渕学級でも、毎日イニシアチブをやっています。
 やりたくない子はやらなくていいのです。
 しかし、ほとんど全員がやっています。
 学校をきれいにする、下級生を教える、用務主事さんの手伝いをするなど。いろいろな活動をしています。
 トイレは、見違えるようにきれいになりました。
 靴は、下級生もそろえるようになりました。


トイレ磨き
靴そろえ
イニシアチブ



 トイレ磨き

 だれでもいやがるトイレ掃除。
 子どもたちは、毎日掃除します。
 これは、3年生の記録です。
 
 7年前のことです。
 鍵山秀三郎さんの本『凡事徹底』(致知出版)を読みました。
 一流企業の社長さんが、人のいやがるトイレ掃除をするなんて…
 しかも、便器でビールが飲めるくらい徹底的にきれいにするなんて…
 衝撃でした。

 次の日から、トイレ掃除をはじめました。
 
ちょっとやっただけで、ぞうきんが真っ黒になりました。
 
主事さんが週一回掃除しています。
 週一回では、きれいにならないのでしょう。
 毎日やることにしました。

 何日かたつと、子どもたちが私の行動に氣づきました。
「先生、何してるの?」
「トイレをきれいにしているんですよ」
「へえーっ、きたなーい」
「ふーん」
「おもしろそう」
 反応はさまざまです。

 この中で、おもしろそうといったKくんが、トイレ掃除をはじめました。
 掃除仲間はどんどんふえていきます。
 今では、「先生は違うところを掃除してください」といわれるようになりました。

 今は、子どもたちに氣づかれないように、そっと磨いています(笑)
 
  トイレそうじ

  ぼくは、トイレそうじにきょうみをもったのは、先生が読んだトイレそうじの本を読んでいるとき、だんだんトイレそうじがしたいなって感じがしてきました。
 その日、先生といっしょにトイレそうじをして、なんかすっきりしてきて、だんだん楽しくなったそのとき、春日くんが、
「いっしょにやろう」
といってきて、ぼくは、
「いいよ」
っていいました。
 でも、ぼくがびっくりしたのが、春日くんが最初から手でふいていることです。
 ぼくもやるようになって、由井くんも入ってきました。
 

 靴そろえ


 イニシアチブ


 今、「地球を大切にしよう」ということが叫ばれています。オゾン層破壊、温暖化、酸性雨、砂漠化など、地球は大きく変化しようとしています。
 いい変化なら大歓迎なのですが、悪くなる一方です。
 「このままでは、地球がだめになってしまう」と思い行動を始めた人がいます。最近は行動する人が増えてきました。
 「地球を大切にする」、考えの違いはあれど、だれもがやらなくてはならないことではないでしょうか。

「子どもに与える財産で、なによりもすばらしいものは美しい地球である」
という言葉を聴きました。その通りだと思いました。
 縁あって、神津島にきた私は、「神津島を大切にしたい」と思っています。
 子どもたちにも、神津島を大切にしてほしいと思っています。

 「大切にする」とは、どういうことでしょうか。
 言葉だけではいけません。やはり、行動することではないでしょうか。
 「神津島を大切に」というと、言葉が大きすぎるかもしれません。もっと、身近なことから始めようと考えました。
 私は小学校に勤めています。だから、まずは「学校を大切にしよう」と行動を始めました。

 1ヶ月たったころ、子どもたちに呼びかけました。
「みんなの力で、神津小学校をもっといい学校にしませんか」
 子どもたちは賛成しました。
「イニシアチブを始めましょう」
「先生、イニシアチブってなーに?」
「人のためになる行動をすること、みんなの役に立つ行動をすることです」
「たとえば、勉強がわからなくて困っている人を助けること、落ちているゴミを拾うことなど、何でもいいんです。自分からやることが大切なんです。みなさんも、やってみませんか」

 その日から、早速始めた子もいました。放課後、私がやっていると、
「先生、私やる!」
「私もやる!」
と、かべをきれいにし始めたのです。

「先生、壁ってきれいにならないね」
「クレンザーでやってみようか」
 クレンザーを使うと、かなり汚れが取れました。
 二人は遅くまで壁をきれいにしていました。千慧さんと華奈さんです。
「どうもありがとう。君たちのおかげで、壁がきれいになりました。ありがとう」

 次の日、今度は千慧さんと大海くんが残って壁をきれいにしてくれました。

 このことをみんなに話しました。
「わたしもやりたい」
「おいも、やる!」
「おいは、ときどきやる」
 多くの子が、やるといいました。
 子どもたちの心、とてもうれしく思いました。

「みんなでやると、学校がきれいになるでしょうね。みんなで、『朝の活動』の時間を使ってやりましょうか」
 続けていいました。
「神津小学校には、主事さんがひとりしかいませんね。おばさんは、毎日学校をきれいにしています。私の前の学校には主事さんは5人もいたんです。学校の大きさはそんなに変わらないのに、ひとりでやっているんですよ。大変だと思いませんか」
「どんなに働いても、主事さんだけの力では学校はきれいになりません。広すぎるからです。でも、みんなでやれば、きっときれいになります」
「自分になにができるか、考えてみましょう」

 こうしてイニシアチブが始まりました。最初は「やらない」といっていた子も、みんなの姿を見て、だんだんやり始めました。
 教室前の廊下の壁、手絵洗い場の壁、1階の手荒い場の壁と、思い思いのところをやっています。
 壁だけではありません。校舎の外を回って、ゴミを拾っている子もいます。1階の廊下をぞうきん掛けしている子もいます。
 
 朝だけではありません。私がトイレを掃除していること知ると、放課後、累くん、隆史くんがトイレを掃除を始めました。
 次の日は、女の子たちも始めました。
 
 今、多くの子がイニシアチブを始めました。


 子どもたちの声を紹介します。

○かべにボールペンの書いたあとがあったので、ふいたらきれいになってよかったと思いました。そこをさわったらつるつるでした。
 そして、やったあとがすっきりしました。

○今日のかいだんそうじのところをそうじがおわって見てみたら、きれいになっていて、こんなにきれいになるとは思いませんでした。

○うれしかった。
そうじやりました。
 またやりたいです。

○ぼくは、4年1組のかべをやっています。ぞうきんでふいています。
 これからは、きれいにしようと思います。

○朝きてかばんをおいて、はいぜんだいのあわをふいたり、かべをふいたりしている。 かべがちょっとずつきれいになった。

○ぼくは、イニシアチブをしています。毎日とはいえないけど、ときどきやっています。はいぜんだいをやったり、かべをふいたりしています。これからもやりたいと思います。

○ぼくは、かいだんのかべをみがいています。すごいきたなかったです。これからもきれいにしていきたいです。

○ぼくはかいだんのところのかべをふいている。
 すみとかがいっぱいついている。

○最近ぼくはイニシアチブを1日しかやっていません。でも、かべはだんだん他の人が「朝の活動」のとききれいにして、「おお、すごいなー」と思います。

○イニシアチブ、毎日じゃないけどやっている。
 なんか楽しくなってきた。

○かべがきれいになったから心もきれいになった。

○これからかべをそうじして学校中をきれいにする。

○「朝の活動」の時間、みんないろんなところを掃除していて、いろんなところがきれいになっている。

○かべをふいて、少しせんざいをつけてふいたら少しきれいになった。

○今日、私は、3年1組のドアのすみを落としました。まだぜんぶはきれいになっていないけど、なんだか気持ちがすっきりしたような気がします。

○この前、教室とろう下のかべを、千慧さんとみがきました。気持ちよかったです。 

○今日、私は、イニシアチブをしました。私は、イニシアチブでろう下のかべをきれいにしました。あと、先生のふいたかべもきれいになっていました。

○イニシアチブとは、人の役に立つことです。これから私はイニシアチブをたくさんやりたいです。

○私は、今日の朝、望さんと、葉月さんと私で、イニシアチブをやりました。
 やり終わったあと、3人はすっきりした顔でした。
 なんかしらないけど、楽しかったです。

○「朝の活動」のときに、葉月さんと望と未十世さんで、すみとかがついていたからとっていた。

○おいらは、教室のかべのところをきれいにしている。

○これから、下のかべや、しょくいん室の前のろう下をやろうと思っています。

○私は、ろう下のかべに書いてあったえい語をけしました。3日くらいできれいになりました。やったぁー!!と思いました。

○今日は、野沢さんのお手伝いみたいに、しょくいん室の前をぞうきんでふきました。下の流しの横をクレンザーできれいにしました。

○イニシアチブをやってたから、だいぶかべがきれいになってきた。

○私は、大海くんと学校のかべをきれいにしました。けっこうきれいになりました。

○ぼくは、いつも千慧さんといっしょにほうかご残って、いろいろなところをみがいています。たまに、いろいろな先生にほめられます。
 これからも続けようと思います。

○こんどは、下の女子トイレのながしをきれいにしたいとおもいます。

○「朝の活動」のときとかにやっているのは、水道の横とかいろんな場所をクレンザーでこすってぞうきんでふきとってやっています。
 雨のときは、かさをなおしたりしています。くつをそろえたり、げたばこのすなをとったりしています。
 やっていると、ようふくもよごれます。
 ぞうきんが白くなるからうれしー
 つかれてくたくただ。

○あまりやっていないけど、いっしょうけんめいやっている。


○「朝の活動」のときは、いつもいっしょうけんめいやっている。「朝の活動」いがいのときも、たまにやっている。

○まどをふいている。

○ぼくも明日からかべとかをふく。


 せっかくきれいにしたのに

 給食の後かたづけをしていたとき
「先生、大変だ!」
「きてー」
という声がしました。
 すぐに行ってみると、せっかくきれいにした廊下の壁に、墨がバサーッという感じでついています。習字が終わり、洗った筆の水氣をとろうと、筆を振ったのでしょう。壁一面が汚れているのです。
「だれがやったんだ!」
子どもたちはいいました。私も腹が立ちました。と同時に、悲しくなりました。
 きれいにするのに、1週間かかったのです。毎日子どもたちと私で壁を拭いたので
す。やっときれいになったというのに──────
 信じられません。
「みんな、こっちにきなさい」
 全員を集めました。
 集まった子どもたちも信じられないという顔で壁を見つめています。
「せっかくきれいにしたのに!」
「だれだ、やったのは!」
 まさか──── 4年生がこんなことをするはずがない。毎日やっていたし、毎
日やっているのを見ていたし、みんなで「きれいになった」と喜んでいたのだから。
 3年生も習字をやったとのことです。
 だれがやったのかはわかりません。なに氣なくやったのでしょう。自分が壁を汚しているなんて考えていないのでしょう。まして、毎日壁をきれいにしている子どもたち心を踏みにじったなどとは、考えもつかないでしょう。
 とても残念でした。

 休み時間になりました。私は壁を掃除しました。
「先生、おらもやる」
 休み時間だというのに、聡くんが手伝ってくれました。
 壁はきれいになりました。でも─────

 放課後のことです。教室を掃除していると、ひとつ残っている鞄が目に入りました。「だれが残っているのだろう」と思い、廊下を見ました。
 雄也くんです。雄也くんがさっきの壁をぞうきんで拭いています。ごしごしと、それは真剣な眼差しでした。

 彼は、かなりの時間壁をきれいにしていました。ひとりで黙々と。
 
 教室掃除が終わりかけた頃
「先生、きれいになったよ」
と、雄也くんがやってきました。
「どうもありがとう」
 それしかいえませんでした。
 雄也くんの行動は、まさにイニシアチブです。彼は自分の意志で壁をきれいにしたのです。放課後、だれもいなくなってから。
 雄也くんの行動を見て、私はもっと何かをいいたかったのですが、言葉になりませんでした。  

 子どもたちの声

 きのうおいたちがいっしょうけんめいにイニシアチブをやったのに、すみやぼくてきでかべをよごされて、すごくはらが立ちました。
 また最初からやりなおし。
 こんなことをした人にふいてほしいくらい。

 何でやったのかを聞きたい。

 なんか、努力をむだにされた気がしてやだったかな?2週間くらいかけてやったかべだよ。

 とてもはらが立ってくやしーと思った。
 手伝ってきれいにしたい。

 私は、かべをきたなくされてがっかりしました。それはどうしてかというと、先生が1週間もかけてやったのに、やった人は、1秒できたなくしたのにあやまりにこなたったからです。

 ムカツキました。だって、せっかくやったものをよごされてくやしいから。

 ふいた人がやったら、すごくやだなーと思う。

 くやしい。
 むかついた。
 やったひとにもとどおりにしてほしかった。

 せっかくみんなできれいにしたのに、すみが落ちないほどきたなくなってすごくイライラしました。だれがやったのかわからないけど、むかついた。1週間もかけてきれいにしたのに、きたなくなってすごくむかつきました。

 ぼくは、先生がせっかくぞうきんに穴をあけながらせっかくきれいにしたのに、またあんなにすみをつけられて、先生がはらが立ったのは、よくわかります。
 すみをつけるのはかんたんだけど、またぞうきんでふくのは何日もかかるのに、すみをつけるのは1秒でできます。
 ぼくもたまにあのかべをきれいにしたいと思います。

 せっかくきれいにしたのに汚されて、またきれいにしないと思って、がっくりしました。長い間ふいてきれいになったのに、すみをつけた人をおこりたいです。

 なんだか頭が「ピキ」となるような気がしてむかついたー。

 せっかっく先生がぞうきんをぼろぼろにしてきれいにしてくれたのに、また、なかなか落ちないすみできたなくして、なんか、せっかくきれいにしたのになーとか、あんなにきれいだったのになーと思いました。

 あー。せっかくきれいになったのにー。よごされて、すっーごくいやな気持ちー。

 せっかくきれいになったかべが、すみでよごされていた。せっかくきれいにしたのに、くやしいよ。

 せっかく先生とかみんながきれいにしたのにすみをかけて、また1か月ぐらいふかなきゃなんない。やった人に自分でふかせたい。

 ぼくは、せっかくきれいにしたところをよごされたらとてもくやしいです。それはどうしてかというと、先生とにたように、きれいにするのには長い時間をかけてきれいにするのに、きたなくするのは、たった1秒間できたなくなるからです。

 ろう下の壁は先生が1週間くらいかけてあんなにきれいにしたのに、あんなにすみがついたからすごいいやでした。

 せっかくきれいにしたのに、かんたんにすみできたなくされちゃってくやしい。

 いつもいつも、がんばってかべをふいていたのに、よごされてムカツキました。だから、昼休み、かべのそうじをしました。でも、まだ黒いのが残っているから、また、いつもみたいにやらなくちゃとおもいました。
 みんないっしょうけんめいやったのを、いっしゅんできたなくされて、すごくムカツキました。
 とてもくやしいです。

 ろう下のかべがすみでよごれていました。そして、みんな「またやりなおしか」という顔でした。

 あそこのかべをきたなくして平気にやってうれしいのか。私は、じぶんがすみとかできたなくされたらどうするのかと思いました。

 かべをよごされて、ぼくはみんながぴかぴかにしたのに、ひゅと1秒できたなくされてゆるさないと思いました。

 私は、先生に「かべをよごされている!」と聞いたとき、いやな気持ちがした。だって、せっかくみんなできれいにしたのにきたなくされていやな気持ちがとってもした。

 もし、自分がそうじしていた所がよごされていたら、ショックです。先生が、あんなにそうじしたのに、かべをかんたんによごすなんて!
 4年とはかぎらない。3年かも。でも、3年をうたがいすぎるのもよくない。
 よごした人は、先生にあやまったほうがいい。

 せっかく先生とか、かべをきれいにしているのに、だれかがまたきたなくした。
 
 私は、すごくいやだ。みんなでいっしょうけんめいきれいにしたのに、よごされたらむかつくし、すごく泣きたい気持ちもあります。

 4年1組のとなりのかべに、すみとかがついていました。そして、先生やいろんな人がそこをきれいにしました。とてもすべすべでした。
 しかし、何日かたって、そのすべすべだったかべは、真っ黒でした。すみだらけだったのです。
 よごすのはかんたんだけど、きれいにするのは、むずかしいのです。とてもかーんときました。
 ざんねんです。とてもくやしいです。

 子どもたちがこのように感じてくれたことをうれしく思いました。
 自分が壁をきれいにしたから感じることです。

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